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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)103号 判決

東京都大田区大森東4丁目33番8号

原告

テイヴイバルブ株式会社

代表者代表取締役

竹内栄多

訴訟代理人弁理士

大島陽一

兵庫県西宮市上田東町4番97号

被告

甲南電機株式会社

代表者代表取締役

杉谷茂太

訴訟代理人弁理士

高木義輝

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成6年審判第13204号事件について平成7年2月22日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「単動形ロータリアクチユエータ」とする特許第1771277号発明(昭和61年4月10日特許出願、平成4年9月16日出願公告、平成5年6月30日設定登録。以下、「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成6年8月4日、本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求し、平成6年審判第13204号事件として審理された結果、平成7年2月22日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年3月15日原告に送達された。

2  本件発明の要旨(別紙図面A参照)

(A)シリンダーケースと、該シリンダーケースに往復可能に支持されるピストン及び回動可能に支持される出力軸と、前記ピストンの直線往復動を出力軸の回転動に変換伝達するための変換機構と、前記ピストンの一方端に作用する流体圧供給手段と、前記ピストンの他方端に作用するばね装置とを有する単動形ロータリアクチユエータにおいて、

(B)前記ばね装置がばねケースと、該ばねケース内に摺動可能に収容されるばね受けと、前記ばねケースの閉鎖端部と前記ばね受けとの間に張設されるばねと、前記ばねケースの解放端に固定されるばねケースカバーと、前記ばね受けに固定された前記ばねケースカバーを貫通するロツドとを有し、

(C)該ロツドは前記ピストンに当接する長さを有し、前記ばねケースカバーがシリンダーケースの一端に取外し可能に固定され前記シリンダーケースのカバーと共用されていることと、

(D)前記流体圧供給手段が前記ピストンの前記ばね装置とは反対側において前記シリンダーケース内に開口する第1流路と前記ばねケースカバーとばね受けとの間において前記ばねケース内に開口し前記第1流路に接続される第2流路とを有し、前記第1流路を通して供給され前記ピストンを前記ばね装置に向かって加圧するとき同時に流体が前記第2流路を通して前記シリンダーケース内に供給され前記ばね受けを前記ばね圧に対抗して加圧することを特徴とする単動形ロータリアクチユエータ

3  審決の理由の要点

別紙審決写し記載のとおり。

ただし、審決3頁2行の「ばねケースカバー」の後に「と、前記ばね受けに固定された前記ばねケースカバー」を加え、3頁4行の「シリンダーケースの」の後に「一端に取外し可能に固定され前記シリンダーケースの」を加え、22頁19行の「貫通杆10」を「連結杆10」に改める。

また、審決手続における「甲第1号証」は本訴の「甲第3号証の2」(以下、「引用例1」といい、引用例1に従来技術として記載されている公知の回転弁駆動装置を「引用例1記載の装置」という。別紙図面B参照)であり、以下同様に、「甲第2号証」は「甲第3号証の3」(以下、「引用例2」という。別紙図面C参照)、「甲第3号証」は「甲第3号証の4」、「甲第4号証」は「甲第3号証の5」、「甲第5号証」は「甲第3号証の6」、「甲第6号証」は「甲第3号証の7」、「甲第7号証」は「甲第3号証の8」、「甲第8号証」は「甲第3号証の9」である。

4  審決の取消事由

本件発明と引用例1記載の装置とが審決認定の一致点及び相違点を有することは認める。しかしながら、審決は、引用例2記載の技術内容を誤認したため、その認定した各相違点の判断を誤り、かつ、本件発明が奏する作用効果を顕著なものと誤認した結果、本件発明の進歩性を肯認したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)相違点〈1〉の判断の誤り

審決は、相違点〈1〉に関して、引用例2記載のロツド(連結杆10)が、本件発明と同様にばねケースカバー(補助シリンダー8の右側壁)を貫通してピストン(4)に当接するものであることを認めながら、「本件発明のロツドとは異なり、停電或はコンプレッサーの故障の際にバルブを閉じたいときにピストンに当接するものであり、通常時に空気圧によりばね(皿バネ)を圧縮して移動させ、ピストンには当接させないものであるから、ロッドとピストンの実質的な配置関係は本件発明のものと異なる」と判断している。

しかしながら、本件発明の特許請求の範囲には、ロツドとピストンとの関係に関しては「ロツドは前記ピストンに当接する長さを有し」と記載されているのみであって、審決がいうような使用状態についての限定はなされていない。また、本件発明の「ばね装置とカバーの交換という簡単な作業でも複動形にも単動形にも利用でき」(本件公報6欄34行、35行)るという作用効果を奏するためには、ロツドがピストンと連結されず、分離可能な構成であればよいことは明らかである。

このように、本件発明のばね装置が、ピストンの復動を目的としつつ、フェイルセーフをも兼用するので、ロツドが常時ピストンに当接しているのに対し、引用例2記載のばね装置は、フェイルセーフのみを目的とするので、ロツドが非常時にのみピストンに当接するという相違はあるが、両者は、少なくとも「ばねケースカバーを貫通するロツド」が「ピストンに当接する長さを有」するという構成において一致し、この構成によって得られる、ばね装置をシリンダーケースから取り外せるという作用効果においても共通している。そして、引用例2記載の考案は、ばね装置が不要なときは、シリンダーケースの解放端に取外し可能に固定されているばねケースカバーを取り外すことによってばね装置全体を取り外し、シリンダーケースの解放端にねじ蓋のような密封栓を取り付ければ、複動形シリンダーとして利用できるものであるから、対象とする物は異なるとしても、その技術的思想は本件発明と何ら変わりがない。

したがって、「引用例2には前記相違点〈1〉に関する技術的手段が実質的に記載されているものとは認められない。」とした審決の判断は、誤りである。

(2)相違点〈2〉の判断の誤り

審決は、相違点〈2〉に関して、引用例2の「ばねケースカバー(補助シリンダー8の右側壁)は、シリンダーケースのカバー(シリンダー1の左側壁)と別体であり、しかも、ばねケースカバー(補助シリンダー8の右側壁)をシリンダーケース(シリンダー1)の一端に取外し可能に固定することは記載されていない。」と判断している。

しかしながら、本件発明が要旨とする「ばねケースカバーがシリンダーケースの一端に取外し可能に固定され前記シリンダーケースのカバーと共用されている」という構成は、ばねケースカバーとシリンダーケースカバーとが必ずしも1枚の板で構成されることを意味するのではなく、本件発明が奏すべき作用効果を勘案すれば、固定されたときにばね装置とシリンダーの双方に役立つ部材であるならば、「共用されている」ものと理解すべきである。

そして、別紙図面Cによれば、引用例2記載のばねケースカバーから突設されたねじ状の軸部は、シリンダーケースの軸心部に嵌合されているから、少なくとも軸心部においては、1枚の板で構成されている本件発明の実施例を示す別紙図面Aの第1、第2図記載のばねケースカバー29と全く同様に機能する。したがって、この構成に係る本件発明と引用例2記載の考案との相違は、単なる設計上の微差にすぎないというべきである。

なお、別紙図面Cによれば、ばねケースカバーがねじ込みによってシリンダーケースカバーに固定されていることが認められるから、引用例2記載のばねケースカバーが取外し可能であることは明らかである。

ちなみに、ばねケースカバーがシリンダーケースの一端に取外し可能に固定され、シリンダーケースのカバーと共用されているものは、審決が認定するように甲第3号証の5に記載されている。なお、ばねケースカバーをシリンダーケースの一端に取外し可能に固定することは、甲第3号証の4、6及び7にも記載されており、何ら新規な構成ではない。

(3)本件発明が奏する作用効果の誤認

審決は、本件発明は、相違点〈1〉に係る構成と構成要件Dとが相まって「ばね装置にピストンを作動する流体の一部を導きばね力を相殺するという簡単な構造によりばね力の悪影響を解消し、トルクの増大を図ることができる」との効果(以下、「第1の効果」という。)を奏し、また、相違点〈1〉及び〈2〉に係る構成と構成要件Bとが相まって「共通の本体を用いて単動形にも複動形にも簡単に切換え利用することが可能となった。ロータリアクチユエータの組込段階で設計変更があってもばね装置とカバーの交換という簡単な作業でも複動形にも単動形にも利用でき、従来のようにアクチユエータ全体の交換のために手間と費用がかかることがなくなった。」との効果(以下、「第2の効果」という。)を奏するものと認められると認定している。

しかしながら、第1の効果は、相違点〈1〉に係る本件発明の構成に限らず、引用例1記載の装置のようにロツドとピストンとが一体に変位するように連結されている構成によっても得られるものであるし、第2の効果は、前記のとおり、甲第3号証の4ないし7の記載から容易に予測しうる程度のものにすぎない。したがって、本件発明が奏する作用効果に、顕著性は存しない。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定及び判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  相違点〈1〉の判断について

原告は、本件発明の特許請求の範囲には、ロツドとピストンとの関係に関しては「ロツドは前記ピストンに当接する長さを有し」と記載されているのみであって、審決がいうような使用状態についての限定はなされていないと主張する。

しかしながら、審決は、本件発明の特許請求の範囲の記載を限定的に解釈しているわけではなく、本件発明の構成と引用例2記載の発明の構成とを対比してみると、ロツドとピストンの実質的な配置関係が異なっていると判断しているにすぎないから、原告の上記主張は当たらない。

この点について、原告は、本件発明と引用例2記載のものとは、少なくとも「ばねケースカバーを貫通するロツド」が「ピストンに当接する長さを有」するという構成において一致し、この構成によって得られるばね装置をシリンダーケースから取り外せるという作用効果においても共通すると主張する。

しかしながら、本件発明が要旨とするロツドは、ケースカバーを貫通するだけでなく「ばね受けに固定され」ることを必須の要件とするものである。これに反し、引用例2記載のものには、そもそもばね受けが存在しないのであるから、両者の構成が異なることは明白である。

2  相違点〈2〉の判断について

別紙図面Cによれば、引用例2記載のシリンダー1の左端にはカバーがあり、一方、補助シリンダー8の右端は底部となっていることが認められるから、シリンダー1に着脱自在の一部材が両者を共用する構成でないことは明らかである。この点について、原告は、必ずしも1枚の板で構成されていなくとも固定されたときにばね装置とシリンダーの双方に役立つ部材であるならば「期されている」ものと理解すべきであって、この構成に係る本件発明と引用例2記載のものとの相違は単なる設計上の微差にすぎないと主張するが、誤りである。

また、原告は、引用例2記載のばねケースカバーはねじ込みによってシリンダーケースカバーに固定されているから取外し可能であることは明らかであると主張する。

しかしながら、仮に引用例2記載のばねケースカバーとシリンダーケースカバーの固定方法が原告主張のとおりであるとしても、そのような構成によっては、第2の効果は容易には得られないことが明らかである。この点について、原告は、相違点〈2〉に係る構成は何ら新規なものではないと主張して、甲第3号証の4ないし7を援用するが、これらの刊行物に記載されている技術的事項が本件発明の構成と異なることは、次項記載のとおりである。

3  本件発明が奏する作用効果について

原告は、本件発明が奏する第1の効果は、相違点〈1〉に係る本件発明の構成に限らず、引用例1記載のようにロツドとピストンとが一体に変位するように連結されていても得られるものであると主張する。

しかしながら、引用例1記載のピストン13、14は復動のときは勿論、往動のときもばね16の作用を受けるから、「ばね力の悪影響を解消し、トルクの増大を図る」という第1の効果が得られないことは明らかであって、原告の上記主張は誤りである。

また、原告は、本件発明が奏する第2の効果は甲第3号証の4ないし7の記載から容易に予測しうる程度のものであると主張する。

しかしながら、甲第3号証の4(第2図)記載のロッド2はピストン22と一体のもの、甲第3号証の5(第5図)記載のロッド(押し棒部片)52はピストン2と一体のもの、甲第3号証の7(Fig.1)のロッド21もピストンと一体のものであるから、いずれも、ばね装置の交換によってピストンも取り外されることになるのであって、本件発明が要旨とする「ばねケースカバーがシリンダーケースの一端に取外し可能に固定され」ることとは技術的意義が異なっている。また、甲第3号証の6(Fig.2、Fig.7)記載の筒体115、有底筒体116の解放端側に存する中央リンケージハウジング12の側壁は、取外し可能のものではないがら、第2の効果に関する原告の主張も誤りである。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証(特許公報)によれば、本件発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が下記のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本件発明は、ピストンの往復動を出力軸の回転動に変換して出力するロータリアクチユエータに関するものである(2欄5行ないし9行)。

従来の単動形ロータリアクチユエータでは、ピストンの片側に作用する圧縮ばねを圧縮する力の分だけ、トルクが小さくなる。例えば第4図に示すように、ピストンの両側に交互に流体圧を作用させる複動形ロータリァクチユエータでは、曲線Aのようなトルクが得られるのに対し、片側にばね圧を加えるようにした単動形ロータリアクチユエータでは、曲線Bのようなトルクとなり、複動形の約半分のトルクしか得られない(2欄13行ないし23行)。

この問題を解決する手段として、例えば、ばね圧を克服する大きな力を発生するピストンシリンダ装置をケース本体に取り付けたものがあるが、サイズが大型化する不都合がある(3欄1行ないし9行)。

本件発明は、これらの問題点を解消したロータリアクチユエータを提供することを目的とする(3欄10行ないし12行)。

(2)構成

本件発明は、上記の問題点を、ばねケース内に摺動可能に収容したばね受けと、ばねケース端部とばね受けとの間に張設したばねと、ばねケースの解放端を閉鎖するばねケースカバーとを有するばね装置を、ロータリアクチユエータのシリンダーケースの一端に、シリンダーケースカバーとの共用として取外し可能に固定し、ばね装置のばねケースカバーとばね受けとの間の空間に、ロータリアクチユエータのピストンに作用する流体の一部を供給して、ばね受けにばね力に対抗する力を作用させることを特徴とする、その要旨とする構成を採用することにより解決した(3欄14行ないし25行、1欄2行ないし2欄2行)。

この構成によれば、ピストンを流体圧により動かすときは、流体の一部がばね圧に対抗する力としてばね受けに作用するので、ばね力が打ち消され、ピストンにはばね力は影響しない。したがって、ピストンに加えらえる流体圧はそのままピストンの往復動に利用され、複動形ロータリアクチユエータと全く同様のトルクを出力軸に出力することができる。流体圧を解除すると、ばね圧に対抗している流体も除去されるので、ピストンにはげね圧が作用し、ピストンは復動することができる(3欄26行ないし36行)。

(3)作用効果

本件発明によれば、ばね装置にピストンを作動する流体の一部を導き、ばね圧を相殺するという簡単な構造によって、ばね力の悪影響を解消し、トルクの増大を図ることができる。また、共通の本体を用いて、単動形にも複動形にも簡単に切り換え利用することが可能である。なお、ロータリアクチユエータの組込み段階で設計変更があっても、ばね装置とカバーの交換という簡単な作業で複動形にも単動形にも利用でき、従来のように全体の交換のための手間と費用とが不要となる(6欄26行ないし37行)。

2  相違点〈1〉の判断について

原告は、本件発明と引用例2記載の考案は、少なくとも「ばねケースカバーを貫通するロツド」が「ピストンに当接する長さを有」するという構成において一致し、この構成によって得られる作用においても共通していると主張する。

(1)成立に争いのない甲第3号証の2によれば、引用例1には、従来技術として、「第4図は(中略)公知の回転弁駆動装置を示す断面図であって、紙面に垂直方向にのびる弁軸には回転弁内の弁板などの回転部材(不図示)に取着してあって、該弁軸の一端、弁外に突出している部分にはスコツチヨーク11が取着してある。スコツチヨーク11を囲繞するように、弁にはケーシング20が取り付けてあり、該ケーシングの両側にはシリンダ20a、20bが一体に形成してあり、各シリンダ内にはピストン13、14が図示左右方向に変位自在に配されかつピストンロツド15によって両ピストンは一体に変位するようになっている。ピストンロツド15にはピン17が取着してあり、このピンが、前記スコツチヨーク11のスリツト11aに摺動自在に係合している。シリンダ20b内はピストン14を右方向に始動させるばねである。このような周知の弁駆動装置は、よく知られているように、図示の位置に各ピストンがあるとき、圧力流体を矢印Aのポートから各ピストン13、14の右側スペースSa、Sbに供給するとピストンは図示左方に移動し、これにともなってピン17がスリット11aを摺動しながらスコツチヨーク11、したがって弁軸10を反時計方向に回動させる。ピストン13、14が図示左方に位置しているとき、スペースSa、Sb内の圧力流体を除けば、ばね16の作用で各ピストンは右方に変位し、これにともなってスコツチヨーク11、従って弁軸10は前記と反対方向に回動することになる。」(2頁5行ないし3頁13行)と記載され、添付の第4図には、ケーシング20、シリンダ20a、20b、スコツチヨーク11、ピストン13、14、ピストンロツド15及びばね16の配置関係が示され、シリンダ20a、20bを構成する隔壁がケーシング20の両側に一体的に形成されることが記載されていると認められる(別紙図面B参照)。

(2)一方、成立に争いのない甲第3号証の3によれば、引用例2には、「本考案は、バルブ等を(「バルブ等の」の誤記と考えられる。)回動軸駆動装置における補助閉塞装置に関するものである。即ち、バルブ等回動軸を駆動するシリンダーが、停電或は故障等によって空気圧源のコンプレツサーを使用できない時に、開口しているバルブを閉にする必要が生じた時に、これを閉じることができる補助閉塞装置を設けたもので、特に、この補助閉塞装置は、シリンダー内に皿バネを収容し、この皿バネの反発力によって閉じ得るようにしたものである。」(明細書1頁18行ないし2頁7行)、「1はシリンダーで、このシリンダー1には中央部に駆動軸2を縦設して回動できるように軸承してある。駆動軸2は、シリンダー1内にある作動腕3を装着してある。作動腕3は左右に張出して、この各端部を、シリンダー1内に収容し、かつ前記軸2を中心として左右に相対した一対のピストン4、4’と、連結杆5、5’によって連結され、ピストン4、4’の可動によって作動腕3は揺動して駆動軸2は回動するようになっている。また、前記ピストン4、4’は、シリンダー1の左右端と、中央に穿った空気源に通じる供給孔6、6’及び7からの何れか一方より送られた空気によって可動するようにしてある。又、前記シリンダー1には、一端側に、補助シリンダー8を接続し、この補助シリンダー8に収容したピストン9からの連結杆10を、前記シリンダー1内の一方のピストン4に、補助シリンダー8に穿った連結孔11を通して作用するようにしてある。又、補助シリンダー8内には、複数の皿バネ12を収容して、常にピストン9を、反発作用で押すようにする。更に補助シリンダー8には、空気源に通じる空気孔13から送られた空気圧で、前記ピストン9は、皿バネ12に抗して、皿バネ12に圧縮をあたえながら移動させ、空気源がなくなると皿バネ12の反発でピストン9は押されるようになっている。」(同2頁11行ないし3頁18行)及び「シリンダー1と隣接した補助シリンダー8内のピストン9は、通常空気圧の作用で皿バネ12に抗して移動させた状態に位置している。今、例えば、停電或はコンプレツサーの故障の際にバルブを閉じたい時があると、空気源がないため、ピストン4、4’の作動が得られない。この時には、補助シリンダー8のピストン9に加えられている空気圧を、抜く一方、シリンダー1内部のピストン4、4’間に作用した空気圧を適宜の手段で抜くと、補助シリンダー8に圧縮されて収容された皿バネ12が反発作用をおこしてピストン9を反対方向に附勢すると、ピストン9の移動で、一体の連結杆10はシリンダー1内のピストン4の端面を推して移動して作動腕3に回転をあたえ、駆動軸2を回動するのである。」(同4頁7行ないし5頁2行)と記載され、かつ、添付の第1図には、補助シリンダー8内のピストン9と一体の連結杆10が、シリンダー1内のピストン4に当接している状態が記載されていることが認められる(別紙図面C参照)。

以上の記載によれば、引用例2記載の考案は、通常はピストン4、4’に空気圧を与え作動腕3を介して駆動軸2を回動させる複動型ロータリアクチユエータに、停電あるいはコンプレツサーの故障時に皿バネ12の反発作用によりピストン9と一体の連結杆を介して駆動軸2を回動させる補助シリンダー8を備えたものであって、補助シリンダー8の連結杆10は、通常はピストン4の左右動には関与せず、非常時にのみピストン4に当接して、これを右方向に移動させるものである。したがって、引用例2記載の連結杆10は、ピストン9に固定され、補助シリンダー8の右側壁を貫通し、ピストン4に当接する長さを有する構成のものであることは明らかである。

(3)そこで、相違点〈1〉に係る構成の容易想到性について検討する。

前記(1)の認定によれば、引用例1記載のばね16を受けているピストン14は、ピストン13及び両ピストンを結合するロツド15と一体の部材として形成されており、この一体の部材が、ロツド15に設けられているピン17を介して、弁軸10を回動させる作用を行うものである。そして、この一体の部材の左方向への移動時には圧力流体が供給され、これにより一体の部材はばね16を圧縮しながら移動し、一方、その右方向への移動は、ばね16の反発作用によって行われるのであるから、結局、引用例1記載のピストン14は、左方向への移動時においても右方向への移動時においても、常にばね16の影響を受けていることが明らかである。

そして、審決は、引用例1記載の「ピストン14」が本件発明の「ばね受け」に相当すると認定しており、この点は原告も争わないところであるから、引用例1記載のばね16を受けているピストン14、ロツド15及びピストン13に、前記(2)認定の「連結杆10は、ピストン9に固定され、補助シリンダー8の右側壁を貫通し、ピストン4に当接する長さを有する構成」を適用するならば、ばね16を受けているピストン14に固定されたロツド15を、シリンダ20bの右側壁を貫通させて、ピストン13に当接させる構成が得られることは事実である。

しかしながら、このような構成としても、ピストン14は、(一体として形成されているロツド15及びこれに設けられているピン17を介して)依然として弁軸10を回動させる作用を担っており、この作用を果たすためには、ばね装置方向への移動過程においてばね16を圧縮しながら移動せざるをえないことは明らかであるから(このことは、ばね装置方向への移動が、スペースSaに供給される流体の圧力によって行われると考えても、スペースSbに供給される流体の圧力によって行われると考えても、同じである。)、結局、トルクの増大を実現できないと解するほかはない。

これに反し、本件発明においては、第1流路を通して供給される流体がピストンを左方向に加圧するとき、同時に第2流路を通して供給される流体がロツドを固定したばね受けをばね圧に対抗して左方向に加圧するので、ピストンは、ばね装置方向への移動過程においてばねの影響を受けることがなく、トルクの増大を図ることができるのである(これは、本件発明が、その要旨とするロツドを、「ばね受けに固定され」、「ピストンに当接する」ものとして、「ピストンの直線往復運動を出力軸の回転動に変換伝達するための変換機構」とは関連付けない構成を採用しているからである。)。

したがって、引用例1及び引用例2記載の各技術的事項を組み合わせて得たロツドの構成は、本件発明と技術的思想を異にするものといわざるをえず、相違点〈1〉に係る構成は、引用例2記載の技術的事項を参酌しても、なお容易に想到しえたとはいえないと考えるべきである。

なお、原告は、引用例2記載の考案は、ロツドがばねケースを貫通してピストンに当接しているので、ばね装置をシリンダーケースから取り外すことが可能であり、シリンダーケースの解放端に密封栓を取り付ければ複動形シリンダーとして使用できるから、その技術的思想は本件発明と変わりがないと主張する。

確かに、別紙図面Cによれば、引用例2記載の補助シリンダー8(本件発明のばねケースに相当する。)の右側壁に穿たれている連絡孔11の周囲にはねじ条部が突設され、そのねじ条部の軸部は、シリンダー1の左側壁に穿たれている連絡孔11の周囲の軸心部に嵌合され固定されているものと理解することができる。したがって、引用例2記載のばね装置(補助シリンダー8)がシリンダー1に取外し可能に固定されていると理解することはできるが、前掲甲第3号証の3によれば、引用例2にはシリンダーケースの解放端に密封栓を取り付けて一般の複動形シリンダーとして使用することは全く記載されておらず、また、そのように理解すべき特別の事情も存しないから、原告の上記主張は当たらない。

したがって、相違点〈1〉に係る構成について、引用例1記載の装置に引用例2記載の技術的事項を参酌しても、本件発明と同一の構成を得ることは当業者において容易に想到しえたとはいえないから、この点についての審決の判断に誤りはなく、相違点〈2〉に係る構成の容易想到性について判断するまでもなく、本件発明は、その構成において予測可能性がないというべきである。

3  本件発明が奏する作用効果について

本件発明が、相違点〈1〉に係る構成(すなわち「ロツドは(中略)ピストンの当接する長さを有」する。)と、構成要件D(すなわち「流体圧供給手段が(中略)第1流路を通して供給され(中略)ピストンを(中略)ばね装置に向かって加圧するとき同時に流体が(中略)第2流路を通して(中略)シリンダーケース内に供給され(中略)ばね受けを(中略)ばね圧に対抗して加圧する。」)とを採用することにより、審決摘示のように「ばね装置にピストンを作動する流体の一部をばね装置に導きばね力を相殺するという簡単な構造によりばね力の悪影響を解消し、トルクの増大を図ることができる」との作用効果(第1の効果)を奏することは、本件発明の要旨とする構成及び本件明細書の前記1の記載事項に照らし、技術的に自明である。

また、この相違点〈1〉に係る構成が、構成要件B(すなわち「ばね受けに固定され(中略)ばねケースカバーを貫通するロツド」)、相違点〈2〉に係る構成(すなわち「ばねケースカバーがシリンダーケースの一端に取外し可能に固定され」る。)及び構成要件Cのうち相違点〈1〉及び〈2〉以外の部分(すなわち「ばねケースカバーがシリンダーケースのカバーと共用されている」)と相俟って、ばね装置をシリンダーケースから取り外すことができ、審決摘示のように「共通の本体を用いて単動形にも複動形にも簡単に切替え利用することが可能になった。ロータリアクチユエータの組込段階で設計変更があってもばね装置とカバーの交換という簡単な作業でも複動形にも単動形にも利用でき、従来のようにアクチユエータ全体の交換のために手間と費用がかかることがな」いという作用効果(第2の効果)を奏することも、前記同様、技術的に自明の事項である。

この点について、原告は、第1の効果は相違点〈1〉に係る本件発明の構成に限らず、引用例1記載のようにロツドとピストンとが一体的に変位するように連結される構成によっても得られると主張する。

しかしながら、第1の効果が、ばね受けに固定されたロツドを出力軸を回動させるピストンに連結固定せず、ピストンに当接させるにとどめる構成を採用し、ピストンをばね装置方向に移動させるに際して、これとは別個の手段によりばね受けを同方向に移動させることによって初めて得られるものであることは明らかである。これに反し、引用例1記載の装置のようにロツドとピストンとが一体的に変位するように連結される構成では、ピストン14はばね装置方向への移動過程においてばね16の影響を免れることができず、トルクの増大を実現できないことは前記2のとおりであるから、原告の上記主張は失当である。

したがって、本件発明が奏する作用効果に関する審決の認定に誤りはない。

4  本件発明の進歩性について

以上のとおり、審決の判断のうち、相違点〈1〉に係る構成の予測性を否定した部分は正当である。そして、相違点〈1〉に係る構成は、前項記載のとおり、本件発明が奏する作用効果に大きく関わるのであるから、相違点〈1〉に係る構成が予測性を欠くことは、本件発明が進歩性を有することを基礎づけるものというべきである。

したがって、相違点〈2〉についての審決の取消事由を判断するまでもなく、本件発明は当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないとした審決の結論は、正当として是認することができる。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとわり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面 A

第1図は本発明に係る単動形ロータリアクチユエータの断面図で第3図のⅠ-Ⅰ線における展開断面図、第2図は第3図のⅡ-Ⅱ断面図、第3図は側面図、第4図はロータリアクチユエータの回転角度とトルクとの間の関係を示す特性曲線図である.

1……単動形ロータリアクチユエータ、2……ヒストン、3……シリンダーケース、6……出力軸、7、8……ピストン部、15……カバー、18……ばね装置、19……ばねケース、20……ばね受け、21、22……ばね、23……ロツド、29……ばねケースカバー、34、35……流路。

〈省略〉

別紙図面 B

〈省略〉

別紙図面 C

1……シリンダー、2……駆動軸、3……作動腕、4、4'……ピストン、5、5'……連結杆、6、6'……空気孔、7……空気孔、8……補助シリンダー、9……ピストン、10……連結杆、11……連絡孔、12……皿バネ、13……空気孔。

〈省略〉

平成6年審判第13204号

審決

東京都大田区大森東4丁目33番8号

請求人 テイヴイバルブ 株式会社

東京都新宿区神楽坂6丁目42番地 喜多川ビル7階 大島・成島特許事務所

代理人弁理士 大島陽一

東京都新宿区神楽坂6丁目42番地 喜多川ビル7階 大島・成島特許事務所

代理人弁理士 成島光雄

兵庫県西宮市上田東町4番97号

被請求人 甲南電機 株式会社

大阪府大阪市西区江戸堀1丁目23番26号

代理人弁理士 髙木義輝

上記当事者間の特許第1771277号発明「単動形ロータリアクチユエータ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

審判費用は、請求人の負担とする.

理由

Ⅰ.手続きの経緯、本件特許発明の要旨

本件第1771277号特許(以下「本件特許」という)は、昭和61年4月10日に出願され、平成4年9月16日に出願公告(特公平4-57882号)され、平成5年6月30日にその特許の設定の登録がなされたものであり、本件特許発明(以下、「本件発明」という)の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。これを分節して示すと次のとおりである。

「(A)シリンダーケースと、該シリンダーケースに往復動可能に支持されるピストン及び回動可能に支持される出力軸と、前記ピストンの直線往復動を出力軸の回転動に変換伝達するための変換機構と、前記ピストンの一方端に作用する流体圧供給手段と、前記ピストンの他方端に作用するばね装置とを有する単動形ロータリアクチュエータにおいて、

(B)前記ばね装置がばねケースと、該ばねケース内に摺動可能に収容されるばね受けと、前記ばねケースの閉鎖端部と前記ばね受けとの間に張設されるばねと、前記ばねケースの開放端に固定されるばねケースカバーを貫通するロッドとを有し、

(C)該ロッドは前記ピストンに当接する長さを有し、前記ばねケースカバーがシリンダーケースのカバーと共用されていることと、

(D)前記流体圧供給手段が前記ピストンの前記ばね装置とは反対側において前記シリンダーケース内に開口する第1流路と前記ばねケースカバーとばね受けとの間において前記ばねケース内に開口 し前記第1流路に接続される第2流路とを有し、前記第1流路を通して供給され前記ピストンを前記ばね装置に向かって加圧するとき同時に流体が前記第2流路を通して前記シリンダーケース内に供給され前記ばね受けを前記ばね圧に対抗して加圧することを特徴とする単動形ロータリアクチュエータ。」

Ⅱ.請求人の主張

請求人は、次の証拠方法を提出し、

甲第1号証;実願昭59-128026号(実開昭61-44079号公報)のマイクロフィルム

甲第2号証;実願昭49-155942号(実開昭51-80721号公報)のマイクロフィルム

甲第3号証;実願昭54-78109号(実開昭55-177571号公報)のマイクロフィルム

甲第4号証;特公昭50-19713号公報

甲第5号証;米国特許第3,614,913号明細書

甲第6号証;特公昭53-16473号公報

甲第7号証;本件特許の出願審査における拒絶理由通知書

甲第8号証;本件特許に係る甲第7号証の拒絶理由通知書に対する意見書

本件特許を無効とすべき理由を以下のように主張する。

甲第1号証の従来技術として示されたその第4図には、本件発明の構成要件A、B、Dと構成要件Cの一部を備えた回転弁駆動装置が、

甲第2号証には、本件発明の構成要件A、B、Dと構成要件Cの全部又は一部を備えたバルブ回転駆動装置における補助閉塞装置が、

甲第3号証には、本件発明の構成要件A、B、Cを備えた弁駆動装置が、

甲第4号証には、甲第3号証の場合と同様に共通のシリンダを用いて、復動式シリンダ駆動装置を単動スプリングリターン式駆動装置に変更可能な圧縮空気式駆動装置が、

甲第5号証には、本件発明の構成要件A、B、Cを備え且つ構成要件Dを示唆する構成を備えた弁駆動装置が、

甲第6号証の第1図に示された公知のばね復帰式作動器は、本件発明の構成要件A、B、Cを備え且つ構成要件Dを示唆する構成が、

記載されている。

また、甲第7号証の本件特許の出願審査における拒絶理由通知書には、前記甲第6号証(特公昭53-16473号公報)に「ばね受けピストンにも流体を導入する点」が記載されていることを理由に、特許法第29条第2項の規定に該当すると指摘している。

そして、甲第8号証の本件特許に係る甲第7号証の拒絶理由に対する意見書において、本件審判の被請求人は「復帰式シリンダ(ばねケース)30に設けられた管路が、同シリンダ内に受容されたピストン(ばね板)31に対して流体圧を及ぼすものであることが明らかにされておらず、このピストン31の移動時の抽気のために設けられたものである。」と主張している。

そして、本件発明が特に構成要件Dによって達成しようとしているアクチュエータ本体側のピストンを往復動させる際にばね装置の復元ばね力を相殺して出力トルクの増大を図る効果を得るための構想は、甲第1号証及び甲第2号証に開示され、甲第5号証及び甲第6号証にも示唆されており、又本件発明が構成要件B、Cによって達成しようとしているばね装置をシリンダーカバーに交換すると、共通のアクチュエータ本体を用いて単動形を復動形に変更可能にする効果を得る構想は、甲第3号証~甲第6号証に明確に開示されているので、本件発明は、例えば甲第3号証~甲第6号証に記載された発明の技術思想を甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に適用することによって容易に想到し得るものであり、又両者の組合せから予測される以上の格別の効果を奏するものではないから、本件特許は、甲第1号証~甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。

Ⅲ.当審の判断

1.引用例

そこで、前記甲第1号証~甲第6号証に記載された発明について検討すると、これらの甲各号証には、次の技術的事項が記載されている。

甲第1号証には、その第4図の公知の回転弁駆動装置に関し、「スコッチヨーク11を囲繞するように、弁にはケーシング20が取り付けてあり、該ケーシングの両側にはシリンダ20a、20bが一体に形成してあり、各シリンダ内にはピストン13、14が図示左右方向に変位自在に配されかつピストンロッド15によって両ピストンは一体に変位するようになっている。ピストンロッド15にはピン17が取着してあり、このピンが、前記スコッチョーク11のスリット11aに摺動自在に係合している。シリンダ20b内はピストン14を右方向に始動させるばねである。」(第2頁第10行~同頁第20行)ことが記載されており、その作動について、「図示の位置に各ピストンがあるとき、圧力流体を矢印Aのポートから各ピストン13、14の右側スペースSa、Sbに供給すると、ピストンは図示左方に移動し、これにともなってピン17がスリット11aを招動しながら、スコッチヨーク11、したがって弁軸10を反時計方向に回動させる。

ピストン13、14が図示左方に位置しているとき、スペースSa、Sb内の圧力流体を除けば、ばね16の作用で各ピストンは右方に変位し、これに伴ってスコッチヨーク11、従って弁軸10は前記と反対方向に回動することになる。」(第3頁第2行~同頁第13行)ことが記載され、スペースSaとスペースSbとを連通する管路と、ピストン13、14に対しスペースSaとスペースSbの反対側のスペースを連通する管路」が図示されている(第4図)。

甲第2号証には、「一対のピストン4、4’を収容するシリンダー1を有し、このシリンダーの前記ピストン間には、前記ピストンと連結杆5、5’を介して連結した作動腕3を装着する駆動軸2を縦設して、前記ピストンを空気圧を利用して可動し、駆動軸に回転を与えるようにしたバルブ回転軸駆動装置において、前記シリンダーと接続して、皿バネ12と、これによって作動するピストン9を収容した補助シリンダー8を設け、更に補助シリンダー内のピストンと連結した連結杆10を、シリンダー内のピストンに作動を伝えるよう関連させてなる補助閉塞装置。」(実用新案登録請求の範囲の欄)が図面と共に記載されている。そして、前記装置の作動について、「シリンダー内に縦設した駆動軸2は、一端をバルブ等の回転軸に連動するよう連結して、通常は、シリンダー1に穿った空気孔6、6’及び7に空気圧を供給することによってピストン4、4’を互いに接離させ、このピストン4、4’と連結した作動腕3で駆動軸2を開或は閉方向に回動するものである。

又、シリンダー1と隣接した補助シリンダー8内のピストン9は、通常空気圧の作用で皿バネ12に抗して移動させた状態に位置している。

今、例えば、停電或はコンプレッサーの故障の際にバルブを閉じたい時があると、空気源がないため、ピストン4、4’の作動が得られない。この時には、補助シリンダー8のピストン9に加えられている空気圧を、抜く一方、シリンダー1内のピストン4、4’間に作用した空気圧を適宜の手段で抜くと、補助シリンダー8に圧縮されて収容された皿バネ12が反発作用を起こしてピストン9を反対方向に付勢すると、ピストン9の移動で、一体の連結杆10はシリンダー1内のピストン4の端面を推して移動して作動腕3に回転を与え、駆動軸2を回動する」(第3頁第19行~第5頁第1行)ことが図面と共に記載されている。

甲第3号証には、「ケース本体1の内部に往復運動を回転運動に変換伝導するための変換機構Aを設け、該ケース本体の一側にストッパ部材18或いは圧縮ばね機構23、24を適宜選択して着脱自在に設けるとともに、他側に適宜の出力を有するシリンダ機構Bを着脱自在に設けたことを特徴とする、弁駆動装置。」(実用新案登録請求の範囲の欄)が図面と共に記載されている。そして更に実施例について、「第1図に示した同一の駆動力を要するバルブにスプリングリターン式装置を取付ける場合は、第1図に示した同一のケース本体1の一側に圧縮ばね23を有するばね箱24を取付け、かつ他側に上記圧縮ばね23を圧縮するのに必要な力の分だけ出力を大きくした内径の大きいシリンダ本体21を取付けることにより、弁駆動装置として確実に弁に装着でき、そのため同一のケース本体1を複動式及び単動スプリングリターン式の両者に共通して使用することができ得る。」(第5頁第20行~第6頁第9行)ことが図面と共に記載されている。

甲第4号証には、「漏れ止めシリンダ1と、このシリンダの内部において互いに相対的に反対方向に漏れ止めの状態で滑動自在にした2つのピストン2と、反対方向に延びる2個の二又部片38を持ち出力軸部片23に回動できるように連結した枢動てこ部片37と、前記各ピストンにより支えた滑動部片13と、この各滑動部片により支えられ前記二又部片の1つに連関するローラ部片19とを備えた、出力軸部片の制限した各変位を行う圧縮空気式駆動装置において、前記各滑動部片13に、前記シリンダの直径よりわずかに小さい直径を持つ円筒面14と、前記シリンダの母線にほぼ平行で前記出力軸部片上を滑動できる扁平面15と、前記ピストンから遠い方の端部に設けられ、前記シリンダの直径にほぼ等しい直径を持つ円筒形案内フランジ16と、前記扁平面と共通の平面上にある1つの面を持つ少なくとも1個の案内出張り21、21とを設け、前記各ピストンに、他方のピストンにより支えられた前記滑動部片の案内出張りを受け入れることができる空洞22を設け、前記出力軸部片の中央部分の各側においてこの出力軸部片にはめた各スリーブ部片27、28を、前記ピストンの移動の際に前記扁平面およびこの扁平面と共通の平面上にある前記案内出張りの面に接触するように配置して成る、圧縮空気式駆動装置。」(特許請求の範囲の欄)が図面と共に記載されている。更に、前記ピストン2の駆動に関し、「第5図に示した変型では各ピストン2は圧縮空気の作用のもとに相互に近づく向きにまた各もどしばね部片により相互に遠ざかる向きに動かされる。

各シリンダヘッド4は、ばね部片51を納める外部ケーシング41を支えるようにしてある。円柱形の押し棒部片52はシリンダヘッド4を貫通している。押し棒部片52の一端は割り輪部片53によりピストン2に取付けてある。他方の棒部片端部はケーシング41内に位置し杯状部片55を支えている。ばね部片51は杯状部片55とシリンダヘッド4との間に位置している。

圧縮空気を側方の口8を経て送入するときはこの空気はシリンダ1内に円筒体3のフライス加工みぞ11を経て入り2個のピストン2、2を互いに近づける。各ピストン2により駆動する押し棒部片52はばね部片51を備えている。圧縮空気の作用が継続的であるときは各ばね部片51は伸長して2個のピストン2、2を互に遠ざかる向きに動かす。

第5図に示した変型とは異なって第6図に示した変型では各ピストン2を、2個のピストン2、2の間に形成した空間内に送入する圧縮空気の作用のもとに互に遠ざかる向きに動かされ次でこの圧縮空気の作用が止むとすぐに各もどしばね部片51により互いに近づく向きに自動的にもどる。

シリンダ1は各端部に、弾性割り輪部片6により保持するケーシング41の形のヘッドを設けてある。ケーシング41にはその端部壁にまた対応ピストン2の端面にそれぞれ当てがったばね部片51を設けてある。

ケーシング51の端部壁に形成した穴71はケーシング51の内部とまわりの大気との間を連通させる。圧縮空気を直径に沿う口7を経て送入するときは各ピストン2は互に遠ざかる向きに動き各ばね部片51を圧縮する。穴71はケーシング41の内部を大気圧に保つ。圧縮空気の作用を止めるときはばね部片51がのび2個のピストン2、2を互いに近づく向きに自動的にもどす。」(第5頁第9欄第23行~同頁第10欄第18行)ことが図面と共に記載されている。

甲第5号証には、弁駆動装置に関し、Fig1および2と共に、アクチュエータが中央のハウジング12と、左右のハウジング13、14とを具え、中央ハウジング12内にはアクチュエータの本体部分が納められており、該ハウジングに対して着脱可能にされた左右のハウジング11、13にはそれぞれ互いに同様の構成を有する復動式シリンダ・ピストン装置が納められている。これらのシリンダ・ピストン装置のための流体通路は、中央ハウジング12の左右の端壁に向けて開かれた流路31、32および、左右のハウジングの壁の内部を経て、これら左右両ハウジングの外側の端壁の内再に到る流路30、33により構成されている、ことが記載されており、又、Fig7と共に、左右のハウジングの一方に、通常のシリンダ・ピストン装置を設ける代わりに、復元ばね装置を納めたばねハウジングを設けるようにした実施例が示されている。この実施例は、流体圧が失われたときに、バルブなど、作動されるべき対象が閉または開状態となるようにし、必要な安全性を得るようにしたものであり、ばねハウジング115、116は、Fig1の左右のハウジングに代えて装着できる。中央ハウジングを左右に貫通するピストンロッド50の端部81にはピストン83がリングにより固定されている。ピストン83とハウジング115、116の外側の端壁との間で圧縮コイルばね123、124が挟持されている、ことが記載されている。

甲第6号証には、本件発明のロータリアクチュエータに相当する作動器の現存する技術についての問題点として、「ばね復帰式作動器または同等のフェイルセイフ装置が開発された、しかしこれらの装置も問題、特にピストンストローク中に庄縮空気または流体を排出する必要性により生じる問題に遭遇した。」(第1頁第10行~同頁第14行)点を掲げ、その現存する技術を第1図と共に「各シリンダー内のピストンはロッド21により連結される。図示しない管路を通ってシリンダー20に入る圧力流体によりピストンが往復動するとき、ロッド21へ取り付けられピンによりハウジング10内でヨーク40が回転せしめられ、これによりヨークヘキー止めした弁ステム50が回転せしめられる。第1図の左側のピストンが左へ動くとばね板31を押圧し、このばね板がばね32を圧縮する。ばねにポテンシャルカが蓄積することにより圧力の除去時にピストン及び関連ヨークを反対方向に押圧するポテンショナル力が与えられる。」ものであるとし、更にその問題点として、「左側のピストンが左に動くときに、もし抽気口を設けなければこのピストンの全面に相当の圧力が増加することが明らかである。」(第2頁第3欄第13行~同頁同欄第15行)ことから、

「この図において、大気に通じる空気ブリーザー33が設けられている。この口の性質は運動するピストンにより変位する相当な量の空気または他の流体を保証すう装置を設ける必要のあることを示そうとするに過ぎない。」(第2頁第3欄第15行~同頁同欄第20行)ことが示されている。そして、この甲第6号証においては、これらの問題を解決するための発明として、「ハウジング110、前記ハウジング内において作動されるべき部材に連結されてかかる部材を作動すべく可動である作動装置、および前記ハウジングに取り付けられたばね復帰式シリンダーを具備し、前記ばね復帰式シリンダーは管状部材136と、この管状部材136の各端における閉鎖部材137、138と、前記作動装置と共に運動するように配列された前記ばね復帰式シリンダー内のワッシャー部材151、153と、前記管状部材を通って延びたタイロッド141、142とを含み、前記ワッシャー部材は前記タイロッドに滑動可能となし、かつ前記ワッシャー部材はその両面間の比較的に妨害されない流体の連通を許す如きになして圧力の過剰な増加なしにワッシャー部材の運動を許容すべくなし、さらにばね復帰式シリンダーの一端への前記ワッシャー部材の運動に抵抗するように設けられたばね装置171、172を含んだことを特徴とする作動器。」(特許請求の範囲の欄)が図面と共に記載されている。そして、その実施例について、「前記タイロッドはピストンを案内しピストンから側方力を受けるのみならず、シリンダーを結合するクランプとして作用する。またこれらのタイロッドは前述の如く作動器全体を連結するように作用する。ロッド126はシリンダー120の一端に係合し、中央ハウジング110を通ってばねシリンダー130の一端板に螺合する。他方のタイロッド127は端板123からシリンダー120を通って延び、中央ハウジング110のラグ延長部と螺係合して終っている。タイロッド端を取り付ける上記方式の組合せを用いることは本発明の範囲にある。所要トルクの変更はしばしば生じる。この利用可能なトルクは就中ピストン面の面積の関数である。即ち、各種直径のシリンダーがしばしば用いられる。上記構成によればシリンダー120のタイロッド126、127を迅速に除去し、適正な寸法の直径のピストンを有する他のシリンダーを挿入できる。」(第2頁第3欄第38行~同頁第4欄第11行)こと、「中央ハウジング110の他側にはばね復帰式シリンダー130が設けられる。シリンダーは管部分136、前端板137および前記管部分へ結合された後端板138を含んでいる。タイロッド141、142が設けられている。上方のロッド141の一端はナット143により端板137に関して固着され、他端は端板138と係合している。下方のタイロッド142にも一端がナット144により位置せしめられ、他端は板138を貫通している。

この他端は第3図に11で示す如く中央ハウジング110の螺刻頂部に係合でき、圧力シリンダータイロッド126は板延長部138aとの螺係合に終わることができる。しかして二個のシリンダーは中央ハウジングヘ固着される。

ばね復帰式シリンダー130内で、一個以上のばねワッシャー151、153が係合し、タイロッド141、142により案内される。ワッシャーはかかる滑動係合を許すように穿孔されている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第3図にはコイルばね171、172が示され、前者はワッシャー151、153の間を延び、後者はワッシャー153と端板137との間を延びる。第4図ではばねが1個だけ必要とされ、これはワッシャー151と端板137との間に位置する。板138と延長部138aは中央が穿孔され、ピストンロッド121の一端の通過を許す。前記ロッド端はワッシャー151の凹陥中央部分152に対接する。」(第2頁第4欄第24行~第3頁第5欄第12行)ことが図面とともに記載されており、それらの効果について「ダンパーの構成により作動器全体の取替えを必要とすることなしにシリンダーの一方または両方を取り替えうるかを述べた。ばね復帰式シリンダーに関し、これは各種のばね強度が必要とされる場合に特に有利である。操作作動器を分解するよりもむしろシリンダー全体の代替物を使用できる。またこのコンパクトな構成により、ばねを容易かつ安全に予圧縮できまたシリンダー管に挿入できる。」(第3頁第5欄第35行~同頁同欄第43行)ことが記載されている。

2.対比及び判断

(1)対比

本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証の「ケーシング20とシリンダ20a」、「ピストン13」、「弁軸10」、「スコッチヨーク11、スリット11a及びピン17」、「スペースSaとポートAを連通する通路」、「スペースaとスペースSbを連通する管路」、「シリンダ20b」、「ピストン14」、「ばね16」及び「シリンダ20bの右端に位置する隔壁」は、本件発明の「シリンダーケース」、「ピストン」、「出力軸」、「変換機構」、「第1通路」、「第2通路」、「ばねケース」、「ばね受け」、「ばね」及び「ばねケースカバー」にそれぞれ相当することから、

両者は、「シリンダーケースと、該シリンダーケースに往復動可能に支持されるピストン及び回動可能に支持される出力軸と、前記ピストンの直線往復動を出力軸の回転動に変換伝達するための変換機構と、前記ピストンの一方端に作用する流体圧供給手段と、前記ピストンの他方端に作用するばね装置とを有する単動形ロータリアクチュエータにおいて、

ばね装置がばねケースと、該ばねケース内に摺動可能に収容されるばね受けと、前記ばねケースの閉鎖端部と前記ばね受けとの間に張設されるばねと、前記ばねケースの開放端に固定されるばねケースカバーを貫通するロッドとを有し、

前記ばねケースカバーがシリンダーケースの一端に固定され前記シリンダーケースのカバーと共用されていることと、

前記流体圧供給手段が前記ピストンの前記ばね装置とは反対側において前記シリンダーケース内に開口する第1流路と前記ばねケースカバーとばね受けとの間において前記ばねケース内に開口し前記第1流路に接続される第2流路とを有し、前記第1流路を通して供給され前記ピストンを前記ばね装置に向かって加圧するとき同時に流体が前記第2流路を通して前記シリンダーケース内に供給され前記ばね受けを前記ばね圧に対抗して加圧することを特徴とする単動形ロータリアクチュエータ。」である点で一致し、

〈1〉 前記ばねケースカバーを貫通するロッドの構成が、本件発明は、「ロッドはピストンに当接する」のに対し、甲第1号証に記載の発明は、ロッド(甲第1号証の「ピストンロッド15」が相当する。以下括弧内は甲各号証の構成要素で本件発明の構成要素に相当するものを表す。)によりピストン(ピストン13)とばね受け(ピストン14)とが一体に変位するように連結されている点、

〈2〉 前記ばねケースカバーの構成が、本件発明は、「シリンダーケースの一端に取外し可能に固定されシリンダーケースのカバーと共用されている」のに対し、甲第1号証に記載の発明は、共用されてはいるが取外し可能に固定するとの記載がない点、

が相違する。

(2)判断

次に、前記相違点について検討する。

甲第2号証には、前記相違点〈1〉に関し、ばねケースカバー(補助シリンダー8の右側壁)を貫通するロッド(貫通杆10)が、ピストン(ピストン4)に当接する構成は記載されている。しかしながら、このロッドは、本件発明のロッドとは異なり、停電或はコンプレッサーの故障の際にバルブを閉じたいときにピストンに当接するものであり、通常時に空気圧によりばね(皿バネ)を圧縮して移動させ、ピストンには当接させないものであるから、ロッドとピストンの実質的な配置関係は本件発明のものと異なるものである。したがって、甲第2号証には前記相違点〈1〉に関する技術手段が実質的に記載されているものとは認められない。

又、前記相違点〈2〉に関しては、ばねケースカバー(補助シリンダー8の右側壁)は、シリンダーケースのカバー(シリンダー1の左側壁)と別体であり、しかも、ばねケースカバー(補助シリンダー8の右側壁)をシリンダーケース(シリンダー1)の一端に取外し可能に固定することは記載されていない。なお、請求人は、本件発明の構戒要件Dが甲第2号証に記載されていると主張している。しかしながら、前述したように甲第2号証の連結孔11への空気圧は、停電或いはコンプレッサーの故障の際に供給されるものであり、本件発明のように、ばね圧に対抗する力をばね受けに作用するようにしてばね力を打ち消し、ピストンにばね力が影響しないようにするものではないので、本件発明の構成要件Dが記載されているとする前記請求人の主張を認めることはできない。

甲第3号証には、前記相違点〈1〉に関し、ばねケースカバーを貫通するロッド(ロッド2)は記載されているが、そのロッドが相違点〈1〉のように、ピストンに当接するようにする構成は記載されていない。又、前記相違点〈2〉に関し、ばねケースカバーを、シリンダーケースの一端に取外し可能に固定することは記載されているが、ばねケースカバー(ばね箱24の右側壁)とシリンダーケースのカバー(ケース本体1の取付部16)とを共用にすることは明記されていない。

甲第4号証には、前記相違点〈1〉に関し、ばねケースカバー(シリンダヘッド4)を貫通し、ピストン(ピストン2)に取付けたロッド(押し棒部片52)は記載されているが、そのロッドがピストンに当接するようにする構成は記載されていない。又、前記相違点〈2〉に関し、ばねケースカバー(シリンダーヘッド4)がシリンダーケースの一端に取外し可能に固定されシリンダーケースのカバーと共用されていることは記載されている。しかしながら、甲第4号証のばね(ばね部片51)、ばね受け(杯状部片55)、ばねケース(ケーシング41、ばねケースカバー(シリンダーヘッド4)及びロッド(押し棒部片52)の構成は、本件発明の「ばね装置」の構成である「ばねケースと、該ばねケース内に摺動可能に収容されるばね受けと、前記ばねケースの閉鎖端部と前記ばね受けとの間に張設されるばねと、前記ばねケースの開放端に固定されるばねケースカバーを貫通するロッドとを有する」構放とは異なるので、本件発明においては、前記「ばね装置」のみを取外し可能にすることができるが、甲第4号証においては、前記相違点〈1〉の点で述べた構成の差異と相まって、ロッド(押し棒部片52)に連結されたピストン(ピストン2)をも同時に取外されることになり、前記相違点〈2〉の「取外し可能に固定」の実質的な意味は異なるものである。

甲第5号証には、前記相違点〈1〉のロッド(ピストンロッド50)をピストンに当接する構成が記載されていない。又、前記相違点〈2〉に関し、ばねケースを、シリンダーケースの一端に取外し可能にすることが示唆されているだけで、「シリンダーケースの一端に取外し可能に固定されシリンダーケースのカバーと共用されているばねケースカバーを設ける」ことは記載されていない。

なお、請求人は、甲第5号証には本件発明の構成要件Dによって達成しようとしているアクチュエータ本体側のピストンを往動させる際にばね装置の復元ばね力を相殺して出力トルクの増大を図ること効果を得るための構成が示唆されていると主張しているが、甲第5号証には、その「流路32」の構成によって「ピストン83」が「ばね123、124」を圧縮し、復元ばね力を相殺するとの記載又はそれを示唆する記載を見いだすことができない。したがって、前記請求人の主張を採用することはできない。

甲第6号証には、前記相違点〈1〉に関し、ばねケースカバーを貫通するロッド(ロッド21)は記載されているが、ロッドをピストンに当接する構成は記載されていない。しかもそのロッドは、ばね受け(ばねワッシャー)に固定されているものでもない。又、前記相違点〈2〉に関し、ばねケースカバーを、シリンダーケースの一端に取外し可能に固定することは記載されているが、ばねケースカバー(ばね箱24の右側壁)をシリンダーケースのカバー(ケース本体1の取付部16)と共用することは明記されていない。

なお、請求人は、甲第6号証には本件発明の構成要件Dによって達成しようとしているアクチュエータ本体側のピストンを往動させる際にばね装置の復元ばね力を相殺して出力トルクの増大を図ること効果を得るための構成が示唆されていると主張している。即ち、甲第6号証に記載の復帰式シリンダ30に設けた管路は、同シリンダ内に受容されたピストン31に対して流体圧を及ぼすものであるとするのが相当である旨主張しているが、甲第6号証には、それが公知となった当時の技術水準を考慮してもそれを示唆する記載を見出すことはできなく、又前述した甲第6号証の第2頁第3欄第13行~同頁同欄第20行からすると、前記管路は、抽気のための管路であるものと認められる。したがって、前記請求人の主張を採用することはできない。

そして、本件発明は、前記相違点〈1〉の構成及び「流体圧供給手段が前記ピストンの前記ばね装置とは反対側において前記シリンダーケース内に開口する第1流路と前記ばねケースカバーとばね受けとの間において前記ばねケース内に開口し前記第1流路に接続される第2流路とを有し、前記第1流路を通して供給され前記ピストンを前記ばね装置に向かって加圧するとき同時に流体が前記第2流路を通して前記シリンダーケース内に供給され前記ばね受けを前記ばね圧に対抗して加圧する」構成(構成要件D)とが相まって、「ばね装置にピストンを作動する流体の一部を導きばね力を相殺するという簡単な構造によりばね力の悪影響を解消し、トルクの増大を図ることができる。」、及び前記相違点〈1〉の構成、〈2〉の構成及び「ばね装置がばねケースと、該ばねケース内に摺動可能に収容されるばね受けと、前記ばねケースの閉鎖端部と前記ばね受けとの間に張設されるばねと、前記ばねケースの開放端に固定されるばねケースカバーを貫通するロッドとを有する」構成(構成要件B)とが相まって、「共通の本体を用いて単動形にも複動形にも簡単に切換え利用することが可能となった。ロータリアクチュエータの組込段階で設計変更があってもばね装置とカバーの交換という簡単な作業でも複動形にも単動形にも利用でき、従来のようにアクチュエータ全体の交換のために手間と費用がかかることがなくなった。」との明細書に記載の効果を奏するものと認められる。

そうしてみると、甲第1号証乃至甲第6号証に記載されたものを組合せてみても、本件発明は、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

Ⅳ.むすび

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

よつて、結論のとおり審決する。

平成7年3月22日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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